基礎編でも触れていますが、航空管制の交信には原則「英語」が使われています。また多種多様な専門用語も多く使われます。
このため、初めて航空管制の交信を聞く方にとって、交信内容を理解するのは難易度の高いことになります。
そこで、このページでは実際に航空管制ではどのような交信が行われているのか、日本語訳を交えてシミュレーションをしてみます。
これを参考にしていただければ、実際の交信を聞いた時に、その内容を早く聞き取って理解してもらえるようになるのではないかと思います。
【※ご注意】
ここで公開している交信内容は完全な「フィクション」であり、実際の交信を文章化したものではありません。実在の航空会社名やコールサイン等を使用していますが、実際に行われた交信とは全く関係ありません。
実際に行われた交信内容をインターネット等で交換することは、電波法などの法令に違反・抵触する行為となることがあります。
当サイトではそのような行為について奨励はしておりませんので、ご注意ください。
また、そのような行為で不利益を被った場合でも、当サイトでは一切の責任を負いません。
【場面設定(1)】
東京国際空港(羽田空港)発、大分空港行のANA791便が、羽田空港のスポット60番を出発し、大分空港のスポット10番へ到着するまでの、航空管制の交信をフィクションで再現してみます。
※表中の赤文字が航空機側、青文字が管制官側の送信内容を示しています。
- 【SCENE-1】羽田空港出発承認(Tokyo Delivery)
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大分空港行 ANA791便が出発準備を整えて、羽田空港の出発承認管制(Delivery)に呼びかけてきました。
交 信 内 容( 日 本 語 訳 ) 解 説・備 考 Tokyo Delivery,ALL NIPPON 791. To Oita Airport,request clearance, information "A" .
(東京デリバリー、こちらはANA791便です。 大分空港行き、フライトプランの承認をお願いします。ATISは"A"を確認済み。)一番最初の交信は「デリバリー」から始まります。
デリバリーでは、事前に提出済みのフライトプランの承認をもらいます。 「Information "A"」とは、空港の気象情報(ATIS) の情報番号"A" を示し、最新の情報を持っている事を、この番号でこれで確認し合います。ALL NIPPON 791,Tokyo Delivery.Cleard to Oita Airport,via NINOX-RNAV departure flight planed route,maintain flight level 380,squawk 1715.
(ANA791便、こちらは東京デリバリーです。
"NINOX-RNAV"出発方式で大分までのフライトプランを承認します。飛行高度はFL380、レーダー識別番号は1715 です。)出発方式"NINOX-RNAV"とは、各空港ごとに決められている出発ルート の事です。
大規模空港では、行先や使用滑走路などにより様々なルートが定められています。
高度は「フィート」の単位で表され、14000フィ ート以上では「FL」を付けた上3ケタの数値で表現されます。
「FL380」は「フライトレベル380」と読み、高度38000フィートの事を表します。
「レーダー識別番号」とは、管制官がレーダーで航空機を識別するためのコードです。
航空機側ではこのコードを無線機(トランスポンダー)にセットします。ALL NIPPON 791,roger. Cleard to Oita airport via NINOX-RNAV departure, Flight level 380, Squawk 1715.
(ANA791便です。
了解しました。出発方式は"NINOX-RNAV"、高度FL380で大分空港へ向かいます。レーダー識別番号は1715。)管制からの指示を航空機側から復唱します。これにより、管制からの指示が正しく伝わっているか確認できます。
航空管制ではこのやり方(リードバック)が必ず行われています。ALL NIPPON 791,Delivery ,Readback is correct. Contact GND 121.800.
(ANA91便、デリバリーです。
復唱に間違いありません。121.8MHzでグランドと交信してください。)フライトプランの承認、出発ルートの指示など、デリバリーとの交信が終わったら、次はグランド管制との交信です。
管制官から、グランドと交信する指示が出ます。ALL NIPPON 791,Contact Ground,121.800.
(ANA791便、121.8MHzでグランドと交信します。)なお、羽田空港では2015年からデリバリー(出発承認)を「DCL(Data Link Comuunication)」方式へ移行しています。
これはデータ通信を利用して、コクピット内の画面上に管制承認のテキスト(文字列)を表示するもので、音声での通信を行いません。
このため、デリバリーの管制交信を聞くことはほとんど無くなっています。今後、順次国内の空港で導入されていく予定です。
- 【SCENE-2】プッシュバック~地上滑走(Tokyo Ground)
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ANA791便はいよいよスポットを離れます。グランド管制に「プッシュバック」の許可を要求(リクエスト)します。
交 信 内 容( 日 本 語 訳 ) 解 説・備 考 Tokyo Ground,ALL NIPPON 791. Gate 60,
request Pushback.
(東京グランド、こちらはANA91便です。
ゲート60よりプッシュバックを許可願います。)日本では、航空機は自力でのバックを許可されていません。
専用車両(トーイングカー)で押してもらいバックします。
これを「プッシュバック」と言います。ALL NIPPON 791,Tokyo Ground.Pushback Approved. Runway 05. Face to South.
(ANA791便、こちらは東京グランドです。
プッシュバックを許可します。離陸滑走路は05、機首を南に向けてください。)「Face to South」とは機首を南へ向けるようにプッシュバックする指示です。大規模空港での特有の指示です。 ALL NIPPON 791,roger,
Pushback Runway 05. Face to South.
(ANA791便です。
了解しました。プッシュバックを開始します。
離陸滑走路は05、機首は南向き。)
~ANA791便はプッシュバックが終わり、 地上滑走の準備が出来ました~Tokyo Ground,ALL NIPPON 791, Request Taxi.
(東京グランド、ANA791便です。地上滑走を許可願います。)ALL NIPPON 791,Runway 05,Taxi via "E6","E","S".
(ANA791、滑走路05へ、誘導路 "E6","E","S" 誘導路を経由して地上滑走してください。)地上滑走の許可では、離陸滑走路まで経由する誘導路を指示されます。 "E6","E","S"は誘導路の名称です。各空港毎に定められています。 Roger,Runway 05,Taxi via "E6","E","S", ALL NIPPON 791.
("E6","E","S" 誘導路経由で滑走路05へ地上滑走します。) - 【SCENE-3】離陸~出発ルートへ(Tokyo Tower→Tokyo Departure)
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大分空港行 ANA791便は滑走路05へ向け地上滑走中です。いよいよ離陸滑走路05に近づいて来ました。
交 信 内 容( 日 本 語 訳 ) 解 説・備 考 ALL NIPPON 791,Contact Tokyo Tower 118.72.
(ANA791便、118.725MHzで東京タワーと交信してください。)滑走路が近づいてくると、管制は離陸・着陸を管制するタワーに引き継がれます。
引継ぎのタイミングは空港ごとに異なります。Contact Tokyo Tower,118.72,ALL NIPPON 791.
(118.725MHzで東京タワーと交信します。)
~ANA791便は東京タワーの周波数に切替え、東京タワーに呼びかけます~Tokyo Tower,ALL NIPPON 791 On your Frequency.
(東京タワー、ANA791便です。こちらの 周波数に 変えました。)ALL NIPPON 791,Tokyo Tower.
Hold Short of Runway 05.
(ANA791便、東京タワーです。滑走路05の手前で待機してください。)ANA791便の前に先行する離陸機がいたようです。
「Hold short of Runway」というフレーズは滑走路手前で待機を指示するものです。Hold Short of Runway 05.All Nippon 791.
(滑走路05の手前で待機します。)ALL NIPPON 791,Line up and wait, Runway 05.
(ANA791便、滑走路05に入り、離陸開始位置で待機して下さい。)ANA700便の先行機が離陸を開始しました。
次に離陸するANA791便に対し、滑走路に入り離陸開始位置で待機する指示が出ました。
この指示は、到着機(着陸機)などのタイミングによっては発出されないこともあります。Runway 05,line up and wait,ALL NIPPON 791.
( 滑走路05に入り、離陸開始位置で待機します。)ALL NIPPON 791,Wind 050 at 3knots, Runway 05 Cleared for take off.
(ANA791、風向50°、風速3ノット、 滑走路05からの離陸を許可します。)「Cleard for take off」はテレビドラマなどでもよく聞かれる、離陸を許可する有名なフレーズです。
離陸許可に際し、現在の風向と風速が伝えられ ました。
風向は北を360°とする数値で、風速はノットを単位とする数値で表現されています。Runway 05 Cleared for take off. All nippon 791.
( 滑走路05より離陸します。)ALL NIPPON 791,Contact Departure .
(ANA791便、ディパーチャーと交信してください。)離陸したANA791便は、航空路までのルートを担当する、出域管制へと引継がれます。 Contact Departure,ALL NIPPON 700. Good day.
(ディパーチャーと交信します。良い一日を!)「Good day」は航空管制でよく聞かれる挨拶のフレーズです。 この先ANA700便は、出発管制でレーダー誘導を受けながら、航空路へと上昇していきます。
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